アユタヤ 27 危機感 腰が抜ける ってよく耳にする言葉だけど、ほんとにそんな感じでした。 足が踏ん張れなくて、全身震えていました。 私を助けてくれた方は、やっぱりさっき遠くに見えた団体さんの一人だったようです。 その中の一人が私が示した方向へ走っていこうとしましたが、私を抱えているおじさまに、『行くな!』と言われていました。 外人さんのグループが私を取り囲んだ時、初めて安心できました。 おばあさんに近い女性が、ポーチの中から小さなスプレーを取り出し、私のすねに冷たいものを噴きかけると、少ししみました。 気がつかなかったけど、ずいぶんすりむいています。 ポケットティッシュでやさしく傷口をふいてくれながら、『怖かったね、もう大丈夫だから』と言ってくれました。 しばらくして、係りの人が警備員を呼んできてくれて事情を話しましたが、どこの寺も人目につかないところは痴漢が多いし、どうせつかまらないと首を振りました。 さっきよりもずっと増えた観光客の中を外人さんに抱えられて寺の外に出ると、足の震えも大分おさまっていました。 おばあさんが水を買ってきてくれて、それをすこし飲むとやっと落着いて、外の暑さを感じることができました。 おばあさんはおじさまに、ホテルまで送ってあげなさいと言いましたが、私が自転車があるので大丈夫ですと言うと、怪我をしてるからダメだといって、自転車ごとトゥクトゥクに乗せました。 送ってくれるというのを、本当にもうだいじょうぶです、ありがとうございますと断って、助けていただいたお礼と消毒していただいたお礼を言って、自転車を乗せたトゥクトゥクで宿へ戻りました。 すりむいた足が埃っぽい風にあたってヒリヒリしました。
アユタヤ 28 危機感 「どないしたん!?」 宿に着くと、トゥクトゥクに自転車を乗せていたのと私のすりむいた足を見て、Aさんとご夫婦が飛び出してきました。 「怪我してるやんか!自転車でこけたんか!?」 「いや....あのぅ...」 トゥクトゥクから自転車を下ろしてくれるAさんに、痴漢に遭ったなんて動揺して簡単に言えませんでした。 「いいから傷口洗っておいで、消毒するし」 「...消毒は...済んでるんですけど.....」 「チャリはこわれてへんし、...消毒済んだ??...ん?どないしたん?」 問い詰められると、さっきまでの事を思い出してきて涙が溢れて来ました。 「Aさん、のんちゃんTシャツがボロボロじゃないすか」 Kさんも下りてきました。 そういえば、揉みあったときに引っ張られたのか、Tシャツの首元が伸びきっています。 「....のんちゃん、何があったんや?」 それから、すこしづつワット・シー・サンペットで起こったことをみんなの前で話しました。 外人さんに助けられたこと、警備員に言っても犯人は追えないって事。 心配そうに私を見ているご夫婦には、Aさんが通訳して説明していました。 「.....のんちゃん、ごめんな、俺が悪いんや。俺が、人が少ないうちに行けとか言わんかったら良かったんや」 Aさんが申し訳なさそうに言いました。 「違います、Aさんのせいじゃないです。...私が悪いんです、私がちゃんと気をつけなかったから...」 「いや、俺のせいや。プーカオトーン(アユタヤ島外にある白いお寺)とか涅槃像の辺りには卑猥な日本語話すタイ人がおるって聞いてたけど、シー・サンペットとかメジャーな寺に痴漢が出るとは思わんかった.....元々、雰囲気重視で人気のないとこに女の子1人で行かせた俺がアホやったわ。情けない...」 私のせいでAさんを落ち込ませてしまいました...ごめんなさい。 「着替えてから、部屋で少し休みや...。バンコクに戻るなら、夕方、俺が送ってやるしな」 部屋に戻ってシャワーを浴びました。 鏡をみたら、土埃と涙で顔がドロドロでした。 (あ~あぁ....私のせいで雰囲気ぶち壊しだよぅ...せっかく楽しくなってきてたのに...) ベッドに横になると、体が思うように動かないことに気がつきました。 100mを全力疾走した後のような感じです。 (でもよかった...助かって...あ、...もしかしたら、ほんとにパパが助けを呼んでくれたのかなぁ...パパ...ありがとう...) きっとそうです。 危機感を失って大変なことになるところだった私を、天国にいるパパが助けてくれたんです。 心の中でとっさに叫んだ言葉が、きっとパパに届いたんだと思います。 この宿に導いてくれたのもそうです。 今朝、遺跡に行く前にAさんが『トゥクトゥク使ったら?』って言ってくれたのに。 きっと、あの言葉もパパがAさんにお願いしたんだ! パパ、ごめんね! ずっとそばについてくれてたのに... 外国で浮かれてたらダメだよね、前にいろんな人からあんな事、こんな事に注意しなさいって、のん、言われてたんだよ~。 危機感無さ過ぎたから、こんな事になって...でも、もうだいじょうぶだよ。 扇風機はつけてなかったけど、広げた蚊帳が、『フワッ』と揺れた気がしました。 偶然だとは思いませんでした。 パパがそこに立って、私を叱っていたんだと思います。 「危機感を持ちなさい」って。
チョット~っ!! ヤメテよネ~(笑)泣けてきちゃったじゃない! アナタさぁ、いいお父様持ったわね。 だって偶然な訳無いのヨ、そんな事って。 アタシは若い子で性格のいい子を見るといつも思うのヨ、親の教育が良いって。 神仏は信じないようにしてるんだけど、タマンナイわよね。 帰ってからチャンと仏壇かお墓に手を合わせたの? 言われなくても解ってるんでしょうけど、そういう事って大事にしなさいよ。 命はお金で買えないんだから、たかが東南アジアではした金ケチるバカの真似してるとそんな目に遭っちゃうのよ。 若い貧乏自慢してるバカ旅行者と月1の生理持ってる女の子じゃ最初っから違うんだからサ。 だから前からアタシ言ってるじゃない! どこどこに行ってきました~なんて自慢の1つにもなりゃしないのよ(笑) アナタが日本に住むなら、アナタが日本の為に何をするか?なの。 国際結婚でもしない限り、アタシみたいな事も無い訳でしょ? こんなサイトでアチコチ安い金で行った自慢なんて、他のトピに出てる貧乏人に任せとけばいいの(笑) アタシから言わせりゃ、「貧乏なクセに、サービスがどうのこうの言ってんじゃないわよ!」って感じね(笑) アナタは次もパッケージで行きなさい。 ハラハラするわよ。
アユタヤ 29 家族 少し眠っていたんでしょうか、時計を見るとお昼を過ぎていました。 (こんなときによく眠れたな~、私w) 下に行くと、Kさんとご夫婦だけでした。 「大丈夫?少しは落ち着いた?」 ちょうどお昼ごはんの時間みたいで、3人でチャーハンを食べていました。 「ノンチャン、イート、ランチ、イート、ランチ」 心配そうに、でも、優しい笑顔でお昼ごはんをすすめてくれましたが、さすがに食欲がわきません。 「コートート・カー、マイヒウ・カー」 お腹、減ってないんです、ごめんなさいとあやまると、ウンウンと頷いてから、 「チョ...ト、マッテ」 と言って、奥さんはキッチンの方に行きました。 (え...?私のタイ語、通じなかったのかなぁ...) Kさんは少し微笑んで、何も言わずにチャーハンを食べています。 「OK! ノンチャン、イート、イート!」 「.......おかゆ...?」 奥さんがキッチンから持ってきたお碗には、おかゆが入ってました。 (あれ?葱とか刻みノリとか梅干まで入ってる...これって、日本の....) 「それ、Aさんがつくった日本のおかゆだよ。 のんちゃん、まだ何にも食べられないだろうけど、落ち込んでる時に何も食べなかったら余計に気落ちするから、ちょっとでも食べさせろってw こっちの料理は、刺激が強いだろうからって日本風にしたんだよ。 のんちゃんとAさんが初めて会った時、バンコクからの帰り道って言ってたでしょ? Aさん、いつも日本の食材買いにバンコクまで行ってるんだ。 あの人コックさんだからね、何作らせてもスッゲェ上手だよw」 「....わざわざ、私のために...ですか...?...Aさん、どこにいるんですか?」 Kさんは、ハハハッ!っと笑ってから、 「あの人ねぇ、あんな風に見えてスゲェ照れ屋なんだよw よく分かんないけど、さっきもおかゆ作るのに鰹節とか昆布とかでダシ取ってさぁ、『ホンダシとか無いんすかぁ?』って聞いたら、『あんなもん、病み上がりの女の子に食わせる料理に使えるかっ!!』って怒られたよw。 Aさんから言わせたら、いりこダシの方が福岡の田舎育ちの子には口に合うんだってw それで、今、バンコクまでいりこ買いに行っちゃった。 あ、これ俺が言ったって言わないでね。 後でAさんに怒られるからw」 「...でも、そんなにしてもらって....私が悪いのに....」 ご夫婦は、多分、Kさんが話している内容が分かっているのか、 「マイペンラーイ!ノンチャン、ファミリー、A、シンパイ、ノンチャン、A、イーヒト、ノンチャン、シンパイナイ」 それはもちろん分かってるんだけど...... Kさんが、そんな私を見て、 「....Aさんはねぇ、自分が声をかけてのんちゃんをここに連れてきたから、すごく責任を感じてるんだと思うよ。 あの人、アユタヤにずっといるのは、タイの他の町とか行き尽くしたのもあるのかもしれないけど、多分、ここの家族が好きなんだと思う。 ここの家族って、みんな見事にお人好しじゃんw Aさんが初めてここに来た時って、ほとんど客が来なかったらしいよ。 んで、ここの人たちのために、どうしたらもっとお客さんが来るか、そのために色々協力したんだって。 Aさん曰く、『俺は、俺が過ごしやすい宿を作ってるだけや!』って言うんだけどねw。 僕もね、結構旅してる方だけど、あの人は別格かなぁ...旅慣れてる人って、それを鼻にかけるような人結構多いけど、あの人、そういう人が来ると部屋に引っ込んで出てこないからw 『せっかくリラックスしにきてんのに、そんなのに付き合う必要無い』ってw。 この夫婦も良く言ってるけど、あの人、ホントにボスだよ、ここのw 僕も、あのボスがいるからここに長居してるんだけどねw ま、のんちゃんみたいな子はほっとけないよな~、親父としては。 バツイチで、娘さんがいたって言ってたし」 Kさんの話を聞きながら、日本の味がするおかゆをありがたくいただきました。 初めての海外で、こんなにおいしいおかゆを食べることになるとは思いもしませんでした。