私は、驚いて、他へ行こうとしたが、警官は、そのまま行け、と、合図した。
私ひとりが、歩かされた。
大きな車が、向こうから来て、すれ違った。
道は狭くて、車一台がやっとだった。
車は、少し行って、停まった。
後部座席の窓ガラスが、スルスルッと下がり、男が頭を出して、私の方をちらっと見て、また、頭を引っ込め、窓ガラスをスルスルッと上げて、窓を閉めた。
車は、静かに、走り去った。
警官も、さっと、いなくなった。
あれほど、機敏に動く警官を見たのは、初めてだった。
窓から頭を出した男は、よほど偉い人、と思った。
王族か、首相、大臣クラス、と思った。
当時は、タクシンの妹婿のソムチャイ政権だった。
(了)