現地地名をどのように表記するか、もともと日本語ではない言語ですからカタカナ地名に置き換えても、現地の呼び方とずれてしまうことはよくあることですが、ガイド本の表記と以前からの伝統的な呼び方のずれはちょっと考えてしまいます。
1.日本語の撥音「ん」は[n]に決まったものではなく前後の音韻の環境に合わせて[n][m][ng]などに変化します。表記記号としては[N]を利用したりします。
漢字音韻の場合は元来の音韻で末尾が[n][m][ng]のいずれをとるか決まるのが原則ですが、古代音が絶対的なものではなく、地域的時代的な相違があるように思います。
漢語でも日本語に入った段階で日本語の音韻体系に合わせて変化します。
2.タイ語やラオス語でも日本や朝鮮半島と同じく漢語出自の語彙が多くあるように感じます。日本語の場合と同じで、その国の言語体系に合わせて音韻や声調は変化していくようです。ここでは地名について考えてみます。
というのは、歩き方タイ編で「ランパーン」「ランブーン」などの地名が「ラムパーン」「ラムブーン」と表記されていて気になったからです。
3.手元の資料を調べてみると10年前の「歩き方\\\'05~\\\'06」までは「ランパーン」「ランブーン」という伝統的な表記でした。「歩き方\\\'09~\\\'10」では「ラムパーン」「ラムブーン」と変わっています。
タイ語の母音表記はどちらの地名も[- ำ][-am]ですから、原音忠実表記主義を採用したものと思われます。
しかし、日本語の撥音表記「ん」は後に唇音が続く場合は[m]と発音されるのが自然ですから、伝統的表記で間違いがあったわけではありません。日本語の音声に対する無理解が「ム」表記を発生させたと考えられます。
4.日本語の撥音に対する無理解はJR東日本にも見られ、「新-」という漢字音末のローマ字表記に通常は[n]を用いているのに、後続に[m],[b]のような唇音が続くと 「新橋」[shim-bashi]のように[m]音表記を用います。
これは伝統的な漢字音韻と日本語表記と異なり、わたしは[shin-bashi]のほうが美しく正しく感じます。
5.話がそれました。要するに原音忠実主義は誤りではないが、「ラムパーン「ラムプーン」のように伝統的な表記と異なるものは見た目に異様で「ム」[mu]の後の母音が有声化すればむしろ原音と離れてしまうわけです。
地名表記を変更した際に、編集会議で話題になったか知りませんが、従来の表記「ランパーン「ランブーン」を指示したいと思います。
6.タイ語の地名表記は、伝統的な表記を優先して現在の呼び方と異なるものがあります。「ペッチャブリ」と表記するけれど、皆さん「ペッブリ」と呼んでいるような例。こういうのは英文ガイド本でも英文地図でも古くからの表記に引きずられています。タイ語を耳で聞いていないで目で追うから。タイ人は自国語の音韻変化を解かっているので「ペッチャブリ」でも理解してくれますが、ガイド本は日常の呼び方に倣う方が良いと思います。
7.以前からこの掲示板で指摘していますが、北タイの「プレー」[แพร่]はカタカナで読んでも現地では全く通じません。
伝統的な表記は尊重するとして、ペエと呼ばないと通じないというような注記をガイド本に欲しいものです。